最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1661号 判決 1954年8月24日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人浜田博の上告趣意について。
公職選挙法二二四条による価額の追徴は、「収受しまたは交付を受けた利益」を没収することができなくなった時期において、その利益を所持していた者ないしは享受した者より追徴する趣旨であって、その後右利益と同額の金銭が供与者または交付者等に返還されたからといって、返還を受けた者よりこれを追徴すべきものではない。ところで、原判決の認定したところによると、被告人両名は本件供与にかかる金員をそれぞれ自己の用途に費消してしまっていたというのであるから、被告人等において既にその利益を凡て享受し終ったため、最早これを没収することができなくなったものといわなければならない。されば、その後被告人等がそれぞれ所論のように同額の金員を河原伊三郎に返還したとしても、それは本件供与にかかる利益そのものではないから、被告人等において所論追徴を免れる理由は少しもない。論旨引用の判例は、供与にかかる利益そのものが、供与者に返還された案件に関するものであって、本件には適切でない。従って、所論は採用することを得ない(なお、昭和二四年(れ)第一九九七号同年一二月一五日第一小法廷判決「集三巻一二号二〇二三頁」参照)。
弁護人信正義雄の上告趣意は、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)